
生成AIを使えば、どんな文章でも一瞬で作れます。それはつまり、「嘘の実績」や「架空の成功事例」も一瞬で作れてしまうということです。
「お客様満足度98%のキャッチコピーを作って」
「累計導入社数1万社のサービス紹介文を考えて」
「感動的なお客様の成功事例ストーリーを創作して」
ChatGPTやGensparkなどの生成AIにこう指示すれば、AIは躊躇なく、もっともらしい嘘を出力します。その文章は非常に魅力的で、説得力があるように見えるでしょう。
売上を上げたい、競合に勝ちたいと焦る中小企業の経営者にとって、これは「誘惑」です。
「少しぐらい盛ってもバレないだろう」
「AIが書いたことにすればいい」
という甘い考えが頭をよぎるかもしれません。
しかし、生成AIを使って数値や実績を盛る行為は、あなたの会社の息の根を止める行為になりかねません。
SNS時代の今、嘘はすぐに暴かれます。
この記事では、なぜ「数値を盛る」ことが致命的なのか、そのリスクを解説します。
実績が少ない中小企業でも、嘘をつかずに信頼を勝ち取るための「まっとうなマーケティング手法」を具体的にお伝えします。
なぜ数値や実績を盛ってはいけないのか
「少し大げさに言うくらい、広告なら当たり前では?」と思っているとしたら、その認識は今すぐ改めてください。AIを使って手軽に盛れるようになった今だからこそ、そのリスクは以前よりも遥かに高まっています。
1、デジタルタトゥーとしての「嘘つき企業」の烙印
現代において、企業の嘘はSNSや口コミサイトですぐに拡散されます。
「この会社の実績、怪しい」
「AIで作った嘘のストーリーだ」
と特定されれば、その情報は半永久的にネット上に残ります。
これを「デジタルタトゥー」と呼びます。
一度「嘘つき企業」というレッテルを貼られれば、どんなに良い商品を開発しても、誰も信じてくれなくなります。採用活動にも悪影響を及ぼし、優秀な人材が集まらなくなるでしょう。
2、AIのハルシネーションによる「意図せぬ虚偽」
経営者が意図的に盛るつもりがなくても、AIが勝手に数値を盛ってしまうケースがあります。これを「ハルシネーション」と呼びます。
例えば、「当社のサービスの魅力をブログ記事にして」と指示しただけで、AIが勝手に「業界シェアNo.1」や「特許取得済み」といった事実無根の情報を付け加えることがあります。
これをチェックせずに公開すれば、結果として虚偽表示となり、責任を問われるのはAIではなく、それを使ったあなた自身です。
3、従業員のモラル低下と離職
「あの会社の実績は嘘をついている」
「うちは詐欺まがいの広告で売っている」
社長や社員がAIを使って実績を捏造している姿を見て、お客さんはどう思うでしょうか?
4、顧客との信頼関係の崩壊
盛った数字で集めた顧客は、過度な期待を持っています。「期待していた効果が出ない」「話が違う」というクレームの嵐になり、返金騒動に発展しかねません。
嘘の実績で一度売れたとしても、それは焼畑農業です。リピーターはつかず、常に新規客を騙して集め続けなければならない「自転車操業」が始まります。
AIが生成する「都合の良すぎる数字」の見抜き方
AIは「ユーザーが喜ぶ答え」を出そうとする性質があります。そのため、根拠のない数値をさらっと混ぜてくることがあります。
以下のような特徴があれば、それは「AIが盛った数字」である可能性が高いです。
| チェックポイント | 具体例とAIの特徴 |
|---|---|
| キリが良すぎる数字 | 「満足度95%」「売上2倍」「コスト50%削減」など、5や0で終わるきれいな数字は、AIが適当に作った可能性大です。現実は「94.3%」のように半端になります。 |
| 出典・根拠がない | 数字が出ているのに、「〇〇調べ(2023年)」といった出典元が明記されていない場合、AIの創作である疑いがあります。 |
| 期間が不明確 | 「わずか1ヶ月で」など期間を示す言葉があるものの、それが「いつからいつまでの1ヶ月か」が特定されていないケースです。 |
| 異常に高い成長率 | 一般的な業界平均とかけ離れた数値(例:飽和市場で年率300%成長など)が出た場合、AIが「成功ストーリー」を演出するために盛っている可能性があります。 |
【重要】AIへの指示出し(プロンプト)の注意点
「魅力的な数字を使って宣伝文を書いて」と指示するのはNGです。AIに嘘をつく許可を与えているようなものです。
正しくは、「以下の実績数値(事実)を使って、魅力的な宣伝文を書いて」と、必ず人間が用意した正しいデータを入力し、それ以外を使わせないように制限してください。
正しい数値の使い方、信頼を得る実績の伝え方
では、嘘をつかずに実績をアピールするにはどうすればよいのでしょうか? 信頼される数値の使い方の基本原則をお伝えします。
原則1、実数(実数)で語る
「多数の実績」という曖昧な表現よりも、「127社の支援実績」と具体的な実数を出す方が信頼されます。たとえ数が少なくても、実数には嘘のない強さがあります。
原則2,分母と条件を明記する
「満足度90%」と書くなら、「(アンケート回答者100名中90名が「満足」と回答)」というように、分母と条件を小さな文字でも良いので必ず併記しましょう。これが誠実さの証となります。
原則3、計測期間を限定する
「No.1」を謳う場合も、「2023年下半期 大阪エリア Web制作会社部門 顧客満足度調査(〇〇リサーチ調べ)」のように、いつ、どこで、誰が調べたものかを限定すれば、嘘にはなりません。狭い範囲でも1位になれる場所を探すのがランチェスター戦略というマーケティング戦略です。
小さな実績でも魅力的に見せる7つのテクニック
「盛る」のではなく「見せ方を工夫する」ことは、正当なマーケティング活動です。嘘をつかずに、今ある実績を最大限に魅力的に見せるテクニックをご紹介します。
1、「累計」を使う
月間の実績が少なくても、創業からの「累計」にすれば大きな数字になります。「先月の販売数10個」よりも「累計販売数1,000個突破(創業10年)」の方が重みが出ます。
2、「時間」に換算する
「この道20年」というキャリアは、時間に直すと「約40,000時間の現場経験」と言い換えることができます。膨大な時間を費やしてきた事実は、プロフェッショナルとしての信頼感に繋がります。
3、定性的な「深さ」で勝負する
数が少ないなら、深さを見せましょう。「100人に売った」ことよりも、「たった1人のお客様から、手書きで便箋3枚の感謝の手紙をもらった」というエピソードの方が、人の心を動かすことがあります。その手紙の一部(許可を得て)を公開するのです。
4、プロセス(過程)を数値化する
結果の数字だけでなく、そこに至るまでの努力を数値化します。「試作回数50回以上」「構想期間3年」といった数字は、商品へのこだわりと情熱を証明します。
5、「率」ではなく「変化量」を見せる
母数が小さい場合、「売上200%アップ」と言っても実感が湧きにくいことがあります。その場合、「売上が毎月10万円ずつ確実に増え続けている」という実直な変化量を伝える方が、中小企業には親近感が湧きます。
6、権威を借りる(導入事例)
実績数が少なくても、その中に有名な企業や、地域で信頼されている老舗企業が含まれていれば、その1社を大きく取り上げましょう。「あの〇〇社様も導入」という事実は、100社の無名企業の実績に勝ることがあります。
7、ニッチな分野での「初」や「唯一」を探す
「日本初」は難しくても、「〇〇区で唯一の〇〇専門整体院」や「業界初!〇〇保証付きサービス」といった、エリアや条件を絞り込んだ「オンリーワン」を見つけてください。これは事実に基づいた強力なアピールになります。
業種別の実績が少ない時の正直な訴求法
最後に、実績数値が出にくい、あるいはまだ少ない場合の業種別アプローチを紹介します。
工務店・リフォームの場合
【NG】「地域No.1の施工数」(根拠なしの場合)
【OK】「年間12棟限定。一棟入魂で建てています。」
施工数の多さは「現場が手薄になる」という不安要素にもなり得ます。「限定数」を打ち出すことで、希少価値と品質への信頼を高めることができます。
BtoBサービス・ITツールの場合
【NG】「導入社数No.1」(調べてない場合)
【OK】「開発者の顔が見えるサポート。機能要望に即座に対応します。」
導入社数の多さではなく、サポートの厚さや柔軟性をアピールします。初期のユーザーを「パートナー」として大切にする姿勢を見せることで、実績以上の信頼を獲得できます。
正直さも最強のマーケティングの一つ
生成AIを使えば、誰でも簡単に「すごい実績」を捏造できてしまう時代です。しかし、だからこそ、「正直であること」の価値がかつてないほど高まっています。
消費者は賢くなっています。盛られた数字、作られた美談、AIが書いたような無機質な完璧さに、違和感を感じ始めています。
泥臭くてもいい。数が少なくてもいい。
「うちはまだ実績は少ないですが、一件一件全力でやります」
「失敗もしましたが、そこから改良して今の形になりました」
そんな、人間味あふれる正直な言葉こそが、AIには決して生成できない、最強のコンテンツになります。
数値を盛る誘惑に負けないでください。
それは一時的な麻薬のようなもので、必ず副作用で体を壊します。 等身大の自分たちを信じて、嘘のない言葉で伝えること。それが、長く愛される企業になるための唯一の近道です。
