
小さい会社が全体で勝とうとすると続かない。だから小さいな市場を選んで、そこで一番になる。この方針そのものは、いろいろな場所で語られています。ランチェスター戦略やニッチ戦略のことですね。
問題はその次です。では、その小さい市場をどうやって見つけるのか。
ネットやAIで調べると、だいたい同じ答えが並びます。
市場を地理・属性・行動・心理の4つの軸で細分化しましょう。
自社の強みを書き出しましょう。
Google トレンドで検索の推移を追いましょう。
業界レポートを購読しましょう。
方向は間違っていません。王道の方法だと思います。
ただ、小さい会社が狙う規模の市場では、この手順はほとんど機能しません。理由は単純で、その市場は小さすぎて、データに出てこないからです。
この記事では、データに出てこない市場をどうやって見つけるのか?を書きます。
小さい会社に合う市場は、データに出てこない大きさです
ニッチという言葉は「隙間」という意味です。大企業が手を出していない小さな場所、という理解です。
ここで大事なのは、その小ささのサイズです。
小さい会社に合った市場は、ものすごく小さな市場になります。月に数十人しか困っていない。全国で数百社しか該当しない。そういう規模感かもしれません。
検索してみると、こうした市場は「検索数なし」と表示されます。業界レポートにも載らないかもしれません。
データで見つかる市場は、すでに知っている市場です。数えられるくらいの大きさがあり、数えた人がいて、その数字を見た人が他にもいる。
探す市場は、すでに自分が見てる市場です
データで見つからないなら、どこで見るのか。自分の行動の中です。
小さな市場は、趣味やたまたま関わったイベント、仕事で出入りしている業界といった、自分が実際に時間を使っている場所から見つかることが多いです。机の前で考えて出てくるものではありません。
手がかりになる場所を3つに分けます。
1、自分が専門家になっている業界
小さい市場は、専門性の高い業界に多くあります。
専門性が高いというのは、外から見ると中身が分からない、という意味です。その業界の人が何に困っているかは、外の人には見えません。見えないから誰も解決しに来ない。だから隙間が残ります。
そして自分がその業界の専門家であれば、困りごとは勝手に目に入ります。探すというより、すでに知っている状態です。
たとえば印刷の現場を10年見てきた人なら、入稿データの作り直しがどれだけ発生しているかを知っています。介護の現場にいた人なら、記録の書き方で時間が消えていることを知っています。この「知っている」が出発点になります。
2、趣味として続けていること
仕事以外で続けていることも同じように使えます。
趣味は、続けている期間が長くなるほど中身が細かくなります。道具の選び方、場所の取り方、季節ごとの困りごと。続けている人にしか見えない不便が溜まっていきます。
しかも趣味の世界は規模が小さいので、企業が参入してきません。採算が合わないからです。残された不便が、そのまま手つかずになっています。
3、たまたま関わったイベントや集まり
一度だけ参加したイベント、頼まれて手伝った集まり、知り合いに連れていかれた会。こういう場所から見つかることもあります。
一回しか関わっていないので詳しくはありません。それでも「この人たち、毎回これで困っているのか」という気づきは持ち帰れます。詳しくないぶん、その世界にいる人が当たり前として流している不便に気づきやすい面もあります。
専門家であることが、困りごとの見え方を変えます
3つの手がかりに共通しているのは、自分がその場所にいた、という点です。
いた人と、いなかった人では、同じ風景から見えるものが変わります。
分かりやすいのは言葉です。業界の中では当たり前に使われている言い方があり、外の人はそれを知りません。その言葉で検索する人がいても、外の人はそのページを作れません。何と呼ばれているかを知らないからです。
もう一つが頻度です。外から見ると例外的な困りごとに見えることが、中にいると毎週起きていると分かります。逆に、大きな問題のように語られていることが、実際にはほとんど起きていないと分かる場合もあります。この感覚は資料からは得られません。
自分が何かの専門家であれば、その業界の困ったことやニーズは見つかるはずです。見つからない場合は、専門家になるほどの時間をまだ使っていない、ということになります。
見つけた困りごとを、サービスの形にします
困りごとに気づいただけでは市場になりません。それを叶えるサービスを作るところまで進めて、はじめて商売になります。
ここで課題なのは、大きなものを作ろうとする点です。
小さな市場に向けるサービスは、小さくて構いません。相手の数が少ないので、大きな仕組みを作っても必要ではありません。最初は一人の相手に対して手作業で応えるところから始まります。
まず困りごとを一つに絞ります。次に、それが解決した状態を相手の言葉で書きます。そこまでに必要な作業を並べれば、提供するものの形が決まります。
そして誰に向けたものか?を、相手が使っている言葉で書くことが要ります。「中小企業の皆様へ」では届きません。その業界の人が自分のことだと分かる書き方にします。
起業したばかりの時期にこれをやる場合、人に任せずに自分でやることになります。弱い立場での戦い方については起業したてで外注に頼ってしまう問題にも書いていますが、小さな市場を相手にする段階では、自分で手を動かすほうが結果的に早く進みます。
人に聞くことで、見ていた範囲が広がります
自分の行動範囲だけでは限界があります。そこを超える方法が、人に聞くことです。
聞き方には2通りあります。一人ずつ聞く形と、集まりに入る形です。
1、一人ずつインタビューする
その業界にいる人に、時間をもらって話を聞きます。
聞く内容は、困っていることではありません。困っていることを聞くと、たいてい「人が足りない」「忙しい」という一般的な答えが返ります。これはどの業界でも同じなので、市場にはなりません。
代わりに聞くのは、直近で時間を取られた作業です。先週どの作業に一番時間を使ったか、その作業は何回あったか、終わったあとに何が残ったか。具体的な時間と回数を聞くと、本人も気づいていなかった手間が出てきます。
もう一つ有効なのが、今どうやって済ませているかです。困りごとがある場所では、たいてい何らかの自己流の対処が行われています。表計算ソフトで無理やり管理している、紙に書き写している、知り合いに頼んでいる。この自己流が見つかった場所は、サービスが入る余地があるということです。
人から話を引き出す部分は営業の技術と重なります。この聞き方そのものを練習したい場合は営業力アップのセミナーでも扱っています。
2、特定のコミュニティに参加する
もう一つが、その業界や趣味の集まりに入ることです。
インタビューとの違いは、聞かなくても情報が入ってくる点にあります。参加していると、その場の会話の中に不便が混ざって出てきます。改まって質問された場面では出てこない内容が、雑談では出ます。
参加の仕方で注意したいのは、最初から仕事を探しに来た人として振る舞わないことです。そう見られると、本当の困りごとは出てこなくなります。
この点は紹介の話と同じ内容になります。紹介を増やす方法に書いたとおり、自分に合ったコミュニティに入ることと、自分に合ったお客さんが集まることは同じことです。市場を探すために入った場所が、そのまま最初のお客さんがいる場所になります。
大企業もコミュニティには入ってきます。ただし濃い関係を築くところまではやっていないことが多いです。そこが小さい会社に残されている部分になります。
検索ツールや業界レポートの使いどころ
データで見つからないと書きましたが、ツールに使い道がないわけではありません。順番が逆になっているだけです。
ツールは見つけたあとの確認に使うものです。
自分の行動の中で候補が出てきたら、その言葉で検索してみます。ここで見るのは検索数ではありません。見るのは、同じことを売っている会社がいるかどうかです。
誰も売っていなければ、その市場は手つかずか、商売にならないかのどちらかです。見分けるには、自己流の対処が行われているかを確認します。お金を払ってはいないが時間は使っている状態なら、商売になる可能性があります。何もしていないなら、困っていないということです。
すでに売っている会社があれば、その会社が誰に向けているかを見ます。自分が見ている範囲より広い相手に向けているなら、さらに狭めた場所が空いています。
この順番であれば、ツールは役に立ちます。先にツールを開くと、数字が出る市場しか候補に残りません。
狭めただけでは、まだ足りません
小さい市場を見つけて、そこに向けてサービスを作った。それでも売れないことがあります。
理由は、狭めることと必要とされることが別だからです。
その市場の人が困っていると自分が思っていても、相手がお金を払うほどには困っていない場合があります。この判断を飛ばすと、狭い市場で誰も買わないものを売ることになります。
ベネフィットを強くすれば解決する、という話でもありません。相見積もりで安い方に負ける場合の話に書いたとおり、どれだけ強い利点を打ち出しても、相手が必要としていなければ値段で判断されます。
確かめ方は前の章と同じです。今どうやって済ませているかを聞く。時間を使っているなら必要とされています。何もしていないなら、まだ必要になっていません。
狭めても、お金はある程度かかります
狭めれば費用がかからない、という理解は正確ではありません。
絞った範囲の中でも、知られなければ選ばれません。その範囲に届けるための費用はかかります。看板、チラシ、ホームページ、広告、足を運ぶ時間。何かは必要になります。
狭い範囲で一番になる戦い方なので、商品の中身を上げるための投資も要ります。
全体を相手にする場合より桁が1つか2つ小さく済む、というのが実際のところです。ゼロではありません。
お金がないから狭める、という順番ではありません。お金が少なくても届く範囲まで狭める、という順番です。 ここを取り違えると、何も届けないまま待つことになります。
うまくいかない探し方
同じ目的で動いていても、結果につながりにくい進め方があります。3つ挙げます。
1、流行っている分野から選ぶ
話題になっている分野を調べて、そこから入ろうとする形です。
話題になっている時点で、その市場は数えられています。数字が出ているので、資金のある会社が先に入ります。小さい会社が後から入ると、価格で比べられる場所に立つことになります。
2、自分が関わっていない業界を選ぶ
資料を読んで、儲かりそうな業界を選ぶ形です。
中にいた経験がないと、言葉も頻度も分かりません。相手の使う言葉で書けないので、届きません。入ってから学ぶこともできますが、その学習期間のあいだ売上は立ちません。
3、範囲を狭めずに客層だけ言い換える
「中小企業向け」を「小規模事業者向け」に書き換えて、狭めたつもりになる形です。
呼び方が変わっても、相手の数は変わっていません。狭めるというのは、相手の数が実際に減ることを指します。数が減らない変更は、言い換えにとどまります。
よくある質問
ニッチ市場を探す段階で実際に聞かれることをまとめます。
Q: 自分には専門と呼べるものがありません。どうしますか?
A: 期間で考えてみてください。3年以上続けている仕事や趣味があれば、その中に外の人が知らない部分があります。本人は当たり前だと思っているので、専門だと認識していないことが多いです。何も続けていない場合は、まず続ける期間を作るところからになります。
Q: 市場が小さすぎて、売上が足りないのではないですか?
A: 1つの市場で足りない場合は、同じやり方で2つ目を作る形になります。先に広い市場に戻るより、狭い市場で一番になった経験を横に増やすほうが続きます。ただし1つ目で利益が出ていない状態で増やすと、どちらも中途半端になります。
Q: 見つけるまでにどのくらいかかりますか?
A: 期間は読めません。自分の行動の中から見つかるものなので、動いている量によって変わります。すでに専門と呼べる業界がある人は早く、これから作る人は時間がかかります。期間が読めないぶん、探している間も収入が途切れない形にしておく必要があります。
Q: インタビューを頼んでも断られます。
A: 頼み方を変えてみてください。「お話を聞かせてください」は相手に用がありません。「この作業をどうやって処理しているか知りたい」と範囲を限定して、時間も20分などと先に伝えると受けてもらいやすくなります。同業者ではなく、取引先や知り合い経由で紹介してもらう形も有効です。
Q: コミュニティに入っても、仕事の話になりません。
A: 仕事の話にならないほうが、困りごとは出てきます。市場を探す段階では、雑談の中身が材料になります。参加してすぐ受注しようとすると、警戒されて会話が止まります。
Q: 見つけた市場に、すでに他社がいました。
A: その会社が誰に向けているかを見てください。自分が見ている範囲より広い相手に向けているなら、さらに狭めた場所が空いています。完全に同じ相手に向けていて、相手の数が少ない場合は、別の候補に移す判断になります。
Q: Google トレンドで検索数がゼロでした。やめたほうがいいですか?
A: 検索数ゼロは、やめる理由にはなりません。小さい市場は検索数に出ないので、ゼロが普通です。見るのは検索数ではなく、その人たちが今どうやって済ませているかです。時間を使っている作業があれば、必要とされています。
Q: 趣味を仕事にすると、趣味がつまらなくなりませんか?
A: 起こり得ます。自分が楽しむ側から、人に提供する側に変わるので、同じようには続けられません。それが避けたい場合は、趣味そのものではなく、趣味を通じて知り合った業界のほうを市場にする形もあります。
Q: 専門性の高い業界は、参入の規制があるのではないですか?
A: 業界によってあります。資格が必要な仕事そのものには入れません。入れるのは、その業界の人が本業以外で手間をかけている部分です。資格が要る作業の周辺に、資格が要らない手間が溜まっていることが多いです。
Q: データで探す方法は、まったく使えないのですか?
A: 使いどころが後ろにあるだけです。候補を自分の行動から出して、そのあと確認のために検索します。先にデータを開くと、数字が出る市場しか候補に残りません。
まとめ
小さい会社に合う市場は、調べて見つけるものではなく、動いている場所から出てきます。そうなると手順は「どこを調べるか」ではなく「自分がどこにいたか」から始まります。
いた場所に何があったかを思い出す。そこで誰が何に時間を使っていたかを確かめる。その人たちが今どうやって済ませているかを聞く。済ませるために時間を使っているなら、そこが市場です。
検索ツールと業界レポートは、この順番の最後に来ます。先に開くと、数えられた市場しか出てきません。
動いていないと見つからない、というのは「待っていればいつか見つかる」という話ではありません。趣味を続ける、業界に出入りする、集まりに参加する。こうした行動の量が、候補の数をそのまま決めます。何もしていない期間には、何も溜まりません。
