
ペンシルバニアでグラフィックデザインを学び、スロバキア人の天才デザイナーにアドバイスを受けた松尾さん。さらに、怒鳴り合うほど真剣に向き合った上司との仕事を通して、デザインに対する揺るぎない姿勢を培いました。
日本に帰国してからは小さな制作会社で大手企業と直接渡り合い、現在はサイン、チラシ、Web制作の現場で奮闘されています。
「人と商品、人と文化をつなげたい」――その思いを胸に、彼女は今、着物とインバウンドの世界にまで歩みを広げています。
アメリカでデザインを学んだ14年間

つちや:アメリカに行かれてたんですか?
松尾:はい。最初は留学です。ペンシルバニア州ピッツバーグの「アートインスティテュート」で2年半、グラフィックデザインを学びました。
つちや:すごい!
松尾:(笑) 留学前に、建築家の事務所で手伝いをさせてもらって、机上の学びと実務経験を同時に積んでいました。
つちや:実践的ですね。
松尾:本当にそう。建築家のところで、空間のデザインを通して色彩のセンスを磨きました。のちに、PPGの建築資材部門で塗料のディスプレイの仕事をしたときにトレンドのカラーパレット作成にとても役立ちました。
天才スロバキア人との出会い
松尾:その頃、忘れられない出会いがありました。スロバキアから来ていた同年代の女性です。スカラシップで来ていて、絵も彫刻も何でもできる。まさに天才でした。出会った時は有名デザイン事務所で働く有名デザイナーでした。
つちや:そんな人が?
松尾:はい。彼女が独立したときに、会いに行ったら明日から来てと言われて、一緒に仕事をしたんですけど、彼女は全部褒めてくれました。会議で私が言った一言でも、「あや、今日のコメントはパーフェクトだったよ。最高だったよ」ってな感じです。
お客さんに対しても、そうでしたから、愛情をもってお客さんと接することを細かく教えてもらいました。そのころにPPGという会社のディスプレイの仕事をさせてもらいました。
「英語でケンカした」経験が今の糧に

松尾:それからアメリカの企業に就職しましたが、幸いPPGの担当を引き続きさせてもらいました。そこで社長のジョンが私をアートディレクターにしてくれましたが、よくケンカしてましたね(笑)。
つちや:英語でケンカするって、ある意味すごい笑
松尾:一方的に怒鳴られただけです(笑)。でも、彼とのやり取りで「なぜこのデザインなのか」を常に言語化しないといけなかった。それが今でも役立っています。デザインは“説明できる根拠”が必要だと学びました。
私はお客さんにあれもこれも、もっとしてあげたかったのですが、社長のジョンからすると、そこまで時間かけなくていいと言われて怒られました。ビジネスとして収益も大事。それに、社長は私の味方であること、会社が一丸となってやっていくことの大切さをしりました。
帰国後は大阪の小さな制作会社へ
つちや:日本に帰ってきたのは?
松尾:2012年です。大阪の制作会社に入ったんですが、社員4人ほどの小さな会社でした。
でもクライアントは大手メーカー。普通なら代理店を挟むんですが、直でやり取りしていたんです。
つちや:直取引は珍しいですね。
松尾:そうなんです。私は猫のペットフードのパッケージを担当することになりました。面接でどれだけ猫が好きかということを力説したら、採用がきまりました。
現在の3本柱「パンフ・チラシ・Web」
松尾:今は独立して、サイン、チラシ、Webの3本柱で活動しています。Webは不動産やオーダースーツ、訪問介護のサイトなど。コーダーさんと組んで制作しています。
つちや:撮影にも立ち会うんですね。
松尾:はい。実際の現場を見ないとデザインできないので。更新や運営はまだ模索中ですが、日々学びながら進めています。
デザイン×マーケティングで「売れる仕組み」をつくりたい

つちや:Webをやろうと思ったきっかけは?
松尾:デザインだけじゃなく「ディレクターとして入ってほしい」と言われることが増えたからです。お客様にとっては“つくる”より“売れる”ことが大事なんですよね。
つちや:たしかにそうですね。
松尾:将来的にはデザイン+マーケティングで、商品の魅力を届ける仕組みを提供したいです。美しいだけじゃなく「売れる」デザインを目指したいんです。
つちやへの印象
つちや:そういえば、僕の印象ってどうですか?
松尾:最初は「何でも知ってる人」って思いました。信頼されてるなって。
つちや:でも冷たいとか謎って言われます(笑)。
松尾:そう(笑)。何やってるのか分からない。でも、その分奥が深そうに見えますね。
着物×インバウンド、新しい挑戦

松尾:実は最近、着物の仕事もしてるんです。インバウンド向けに「簡単着物」を広めるプロジェクトに関わっていて。
つちや:着物!それはまた全然違う世界ですね。
松尾:でも共通点は「人と商品、人と文化をつなげる」こと。大阪の展示会にも出る予定です。デザインの延長線上に、新しい表現の場を広げている感じです。
プロフィール

松尾 彩(まつお あや)
デザイナー/アートディレクター。
ペンシルバニア州ピッツバーグの「アートインスティテュート」でグラフィックデザインを専攻。留学をきっかけに渡米し、14年間にわたりアメリカで活動。スロバキア人デザイナーとの出会いに衝撃を受け、デザインの基礎を徹底的に叩き込まれる。現地企業ではアートディレクターとしてブランド戦略やプロモーションを統括。
2012年に帰国後は大阪を拠点に、大手企業のパンフレットやパッケージデザインを手掛ける。現在はサイン・チラシ・Web制作の3本柱に加え、マーケティングやインバウンド事業にも挑戦中。
「デザインはゴールではなく、人と商品、人と文化をつなげるための手段」という信念のもと、ものづくりの現場からブランディング、さらに着付けを通じた文化発信まで幅広く活動。
これからのテーマは “日本の良さを世界に伝えるデザイン”。
松尾さんのサイトはこちら→合同会社マイルストーン