
「売り込まない営業」を勧める記事はたくさんあります。
信頼関係を築く、顧客の課題を聞く、売ろうとせず価値を提供する。読むと納得できますし、営業が苦手な人には救いのある話に見えます。
ただ、どの記事にも書かれていないことがあります。この方法を選ぶと何が不利になるのか?です。
結論を先に書きます。
売り込まない営業は単価を上げやすいですが、新規の問い合わせは少なくなります。
これは副作用ではなく、戦略の性質です。知らないまま選ぶと、半年後に「問い合わせが少ない」と悩むことになります。
この記事では、その代償を先に説明します。そのうえで、新規の弱さをどう埋めるかを書きます。
売り込まない営業とは、向こうから連絡が来る状態のことです
まず定義を整理します。
売り込まないで営業ができるというのは、こちらから声をかけるのではなく、向こうから連絡してくる状態になっているということです。つまり仕組みの話であって、態度の話ではありません。
ここに前提があります。向こうから連絡が来るには、商品やサービスに価値がなければなりません。価値がないのに待っていても、何も起きない。売り込まない方針を取る前に、売るものがあるかを確認してください。
そのうえで、向こうから連絡が来る状態を作る道は2つあります。
やることは2つです。価値を磨くか、仕組みを作るか
向こうから連絡が来る状態を作る方法は、大きく2つに分かれます。
ひとつは、価値を提供して引き寄せること。SNSで宣伝せず、価値のあるコンテンツを出し、専門家としてのポジションを取る。「この分野ならこの人」という位置に入ると、価格の比較から外れます。経営戦略の分類で言うと、差別化戦略に当たります。
もうひとつは、問い合わせをもらう仕組みを作ること。 2ステップマーケティングと呼ばれる形です。いきなり本体を売らず、間に軽いものを置いて、まず連絡をもらう。
なお、安さで勝負するコストリーダーシップ戦略でも、売り込まない形にできないわけではありません。ただ価格の比較に乗るので、だいたいは売り込む営業になります。こちらから提案して競らないと決まらない。
ここまでは他の記事と結論が近い部分もあります。問題は次です。
この戦略には、はっきりした代償があります
差別化戦略を取ると、新規の問い合わせは少なくなります。
理由は単純です。専門家ポジションは、見つけてもらうまでに時間がかかるからです。コンテンツを積んで、信頼が溜まって、人から人へ伝わって、ようやく問い合わせが来る。この経路は細く、そして遅いです。
一方、価格で選ばれるルートは速いです。安いという情報は一瞬で伝わります。比較サイトに並んでも上のほうに来ますし、紹介されるときも説明が要りません。
つまり新規獲得という点だけで見れば、コストリーダーシップ戦略のほうが有利です。安さで入り口を広く取る形です。
売り込まない営業をすすめる記事がこれを書かないのは、都合が悪いからだと思います。「売り込まなくても仕事は来ます」という話のほうが読まれますし、その先の商品も売りやすいですよね。
けれど実務では、ここを知らずに選ぶと苦しくなります。
売り込まない方針で半年やって、問い合わせがゼロに近い。単価は高く設定したけれど、そもそも声がかからない。この状態になってから慌てて売り込みを始めると、今までのポジションと矛盾します。
2ステップをどれだけ丁寧に組むかは、戦略で変わります
ここを誤解している人が多いので、はっきり書きます。
2ステップはどの戦略でも使えます。差別化でもコストリーダーシップでも、入り口に軽いものを置く形は作れる。特定の戦略とセットになっているものではありません。
変わるのは、どれだけしっかり組む必要があるかです。
| 戦略 | 2ステップの必要度 | 理由 |
|---|---|---|
| コストリーダーシップ(安さ) | やる意味が少ない | 安さで直接売れる |
| 差別化(価値で提案) | いい加減な2ステップでも効果が出る | 商品力がある |
| ランチェスターやニッチ(狭く絞る) | しっかり組まないと効果は出ない | そもそも商品力が低い場合が多い |
つまり、商品力が低いほど2ステップを精密に組む必要があります。逆に商品力があれば、雑に作っても結果が出てしまう。
これは直感と逆かもしれません。「うちは商品に自信がないから、まず仕組みを雑にでも作ってみよう」と考えると失敗します。自信がない状態こそ、入り口から本体までの流れを丁寧に設計しないと通りません。
狭い範囲で一番を取るニッチ戦略やランチェスター戦略を選ぶ場合、2ステップは最もやらなければならない施策です。商品力で押し切れないぶん、仕組みで補うことになるからです。
一方、戦略全体として並べるとこうなります。
| 項目 | 差別化(価値で引く) | コストリーダーシップ(安さ) |
|---|---|---|
| 売り込むか | 売り込まない | だいたい売り込む |
| 単価 | 上げやすい | 下げざるを得ない |
| 新規の問い合わせ | 少ない | 多い |
| 結果が出るまで | 遅い | 速い |
| 比較されるか | されにくい | 必ずされる |
| 必要なもの | コンテンツと時間 | 資金と仕組み |
どちらが正解という話ではありません。手元にあるものが違えば、選ぶ道も変わります。
ただし注意が1つあります。安さで入る道は、資金がないと続きません。価格を下げても利益が残る仕組みがないと、下がるのは自分の報酬だけになります。設備にも人にも投資できず、安いままの状態で固定されます。
小さい会社や個人事業主が安さで勝負しにくいのは、ここが理由です。だから売り込まない方向を選ぶ人が多い。その判断自体は理にかなっています。
問題は、選んだあとに新規の弱さを放置することです。
無名のうちは「売り込まない」が成立しません
もう1つ、順番の話をします。
「本当に能力が高い人は売り込まない」という言い方があります。たしかにそう見える人はいます。けれどこれを一律に当てはめると、間違えます。
売り込まない姿勢が魅力に見えるのは、相手が品質を推測できる情報が先にある場合だけです。実績が見える、評判が聞こえる、第三者が推薦している。こういう材料があるから、控えめな態度が余裕として伝わります。
材料が何もない状態で同じことをすると、どう見えるか。謙虚だとは思われません。判断材料がないだけになります。相手には、実力があるのかどうかを測る手がかりがありません。
無名のうちに「売り込まない」を選ぶと危険です。
アピールせず、実績も見せず、ただ待っている。本人は差別化戦略を実行しているつもりでも、外から見ると存在していないのと同じです。
だから正確に言うとこうなります。売り込まないことと、価値を見えなくすることは別です。売り込まない姿勢を取るなら、価値が伝わる材料を見える場所に置いておく。これは必ずやります。
新規の弱さを埋める3つの方法
代償を認めたうえで、対策を紹介します。
2ステップマーケティングにする
さきほど戦略として挙げたものを、具体的な手順にします。いきなり本体の商品を売らず、間に軽いものを置く形です。
最初の段階で、入りやすいものを用意します。無料の相談、単発の診断、短い講座、資料。ここは価格を下げても構いません。というより、ここだけコストリーダーシップで取るという考え方です。
そして次の段階で、本体の商品につなげます。一度やりとりをした相手なら、価格の比較から外れています。専門家としての判断を見てもらった後なので、単価を保てます。
入り口は安く広く、本体は高く狭く。
そして範囲の絞り方が効きます。全業種に向けた無料相談は、誰にも刺さりません。業種を絞る、地域を絞る、悩みを1つに絞る。狭くするほど入り口の訴求が強くなり、同時に本体の単価も保てます。
絞り込みが特に重要になるのは、商品力にまだ自信がない場合です。さきほど書いたとおり、ニッチやランチェスターの立場では2ステップを丁寧に組む必要があります。
入り口の訴求、そこで渡すもの、本体につなげる順番。この3つを曖昧にすると、入り口に人は来ても本体に進みません。
具体的な形にしてみます。本体が30万円のサービスだとして、入り口に60分5,000円の相談を置く。相談に来た人のうち何割が本体に進むかを見ます。仮に5人に1人なら、本体1件につき相談が5件必要という計算です。
ここで分かるのは、入り口に何人集めればいいかという数字です。月に1件受注したいなら、相談を5件集める。この5件をどこから連れてくるかという話になれば、やることが具体化します。
入り口の価格設定には考え方があります。安くしすぎると、本気度の低い人が増えて本体に進む割合が落ちます。高くすると数が減ります。目安として、本体の10分の1から20分の1くらいに置くと、入り口としての役割を果たしながら相手の本気度も残ります。
注意点が1つ。入り口で安く提供したからといって、手を抜かないこと。入り口の仕事ぶりで本体を判断されます。ここで雑な対応をすると、本体には進みません。
紹介をもらう
他人に宣伝してもらうという方針を、具体的に動かす方法です。
紹介が出る条件は2つあります。ひとつは、相手が自信を持ってすすめられる仕事をしていること。もうひとつは、紹介できる状態にあることです。
後者が抜けている人が多いです。誰に何を紹介すればいいのかが分からないと、紹介しようがありません。
どんな相手が合うのか、何を頼めるのか、いくらくらいなのか。これを周りの人が言える状態にしておく必要があります。
大阪は人間関係を重視する土地なので、この経路は効きます。
業種ごとの紹介営業のやり方で、Webデザイナーの営業方法については、大阪のWebデザイナーが成功する営業方法7選でも扱っているので、あわせてごらんください。
オファーを用意する
売り込まずに問い合わせをもらう方法として、一番再現性があるのがこれです。
オファーとは、相手が受け取るものです。こちらから売り込む代わりに、受け取れるものを置いておく。相手が自分の意思で手を伸ばす形にします。
効くオファーには条件があります。テンプレートやマニュアルのような、よくある形は弱い。どこにでもあるので、わざわざ連絡する理由になりません。
強いのは2種類です。実際に体験できるもの。そして、その会社しか持っていないデータを載せた資料です。体験は判断材料になりますし、独自のデータは他で手に入りません。
ここまで用意すると、売り込まなくても連絡が来ます。売り込まないという方針と、待っているだけという状態は違う。その差を作るのがオファーです。
専門家ポジションの作り方
最後に、差別化戦略の本体部分です。
価値を提供するコンテンツを作る、という言い方はよく聞きます。具体的に何をするのか。
やることは、自分の判断を見せることです。情報をまとめるだけでは足りません。同じ情報はどこにでもあります。その情報をどう解釈して、どういう場合にどうすべきだと考えるのか。この判断の部分が専門性です。
たとえば一般的な手法を10個並べる記事は、誰でも書けます。対して「この条件ならこの1つに絞るべきで、理由はこうだ」と書く記事は、判断を持っている人しか書けません。読む側も、そこで実力を測ります。
もう1つ、自分で「すごい」と言わないこと。これが売り込まない営業の核心です。
代わりに、第三者が言う状態を作ります。お客様の声、事例、写真、推薦、数字。これらは自分の言葉ではないので、読む側が信用できます。自己評価を繰り返すより、こちらのほうが速い。
そして合わない相手には勧めない。これも効きます。断れる人は、受けた仕事に自信があるように見えます。無理に売り切ろうとしない姿勢が、結果として信頼につながる。
営業の進め方そのものを相談したい方向けには、大阪の営業力アップセミナー講座も開いています。
よくある質問
営業の相談でよく出る質問をまとめました。
Q: 売り込まない営業で、どれくらいの期間で結果が出ますか?
A: 半年から1年は見てください。コンテンツを積んで、信頼が溜まって、人から人へ伝わる経路なので、どうしても時間がかかります。3か月で判断すると、ほぼ確実に「効かない」という結論になります。急いで売上が必要な状況なら、この戦略を主軸にするのは向きません。
Q: 2ステップの入り口は、無料にすべきですか?
A: 無料でも有料でも成立します。無料は数が集まりますが、本気度の低い人も入ってきます。数千円の有料にすると数は減りますが、残る人の質が上がります。どちらを選ぶかは、本体の商品の単価で決めてください。本体が高額なら無料でも回収できますし、本体が数万円なら有料にして絞ったほうが効率がいいです。
Q: SNSで宣伝しないなら、何を投稿すればいいのですか?
A: 判断を投稿してください。何かを紹介するのではなく、こういう場合はこうすべきだと考える、その理由はこうだ、という中身です。商品の告知ばかりになると売り込みになりますし、日常の報告だけだと実力が伝わりません。仕事の中で判断した内容を書くのが、一番手間もかからず専門性が伝わります。
Q: 紹介をお願いするのは、売り込みになりませんか?
A: 頼み方で変わります。「仕事をください」は売り込みですが、「こういう相手が合うので、心当たりがあれば教えてください」は情報の共有です。相手にとっても、誰を紹介すればいいか分かるほうが動きやすい。曖昧にお願いするほうが、かえって相手を困らせます。
Q: オファーを作る時間がありません。何から始めればいいですか?
A: 相談に乗る枠を作るところから始めてください。資料を作るより早く、材料も要りません。回数と時間を決めて、その範囲で受ける形にすれば負担も読めます。それで手応えがあってから、資料や体験の形に広げていくほうが順番として楽です。
Q: コンテンツを作る時間がありません。
A: 新しく時間を作るのではなく、仕事の中で発生したものを記録に変えてください。お客さんに説明した内容、見積もりで聞かれたこと、現場で判断したこと。これはすでに頭の中にあるものなので、考える時間はかかりません。打ち合わせの直後に5分で書き留めておくと、それが素材になります。時間がないという人は、ネタを探す時間がないだけで、中身は持っていることが多いです。
Q: 単価を上げると、既存のお客さんが離れませんか?
A: 価格だけで選んでいた人は離れます。そこは想定の範囲です。問題になるのは長く付き合ってきた人が抜けるときで、これは価格ではなく伝え方が原因の場合が多いです。既存の方には据え置き期間を設けて、新規から新価格にする形にすると、分けて進められます。
まとめ
最後に、この戦略を選ぶべきでない人を書いておきます。読んでいて自分に当てはまるなら、別の道を考えてください。
今月の売上が足りていない人には向きません。結果が出るまで半年から1年かかるので、短期の資金繰りを解決する手段になりません。先に現金が入る方法を確保してから、並行して始めるほうが安全です。
実績がまだ何もない人も、そのままでは成立しません。売り込まない姿勢が魅力に見えるのは、品質を推測できる材料が先にある場合だけです。何も見せていない状態で待っていると、判断材料がないだけになります。まず3件でも声を集めて、見える場所に置いてください。
新規の数を増やすことが今の最優先なら、安さで入り口を広げるほうが速いです。ただし安さは資金がないと続かないので、入り口だけ安くして本体は保つ2段構えにしてください。
逆に、時間をかけられて、すでに何件か実績があり、単価を上げたい段階にいるなら、この戦略は合っています。そのときは新規が減ることを前提に置いて、2ステップ・紹介・オファーのどれかを必ずセットで用意してください。売り込まないことと、待っているだけの状態は違います。
