
売上が落ちてきたとき、原因の候補はいくらでも思いつきます。広告を減らしたせいかもしれない、ホームページが古いせいかもしれない、接客が雑になったのかもしれない、景気のせいかもしれない。考え始めると止まりません。
そして全部に手を打とうとして、どれも中途半端に終わる。これが一番よくある失敗です。
原因を探す記事を読むと、たいてい要因の一覧が出てきます。客数と客単価と購入頻度に分けましょう、内部要因はこの6つ、外部環境はこの5つ。整理としては正しいのですが、一覧を見ても自分の場合がどれなのかは分かりません。
この記事では、要因を並べません。確認する順番を決めます。まず数字で方向を絞り、社内で落ちたものがないかを見て、そこが動いていなければ市場で何が起きたのかを3つに切り分ける。この順番です。
市場の3つというのが、ほかであまり書かれていない部分です。ライバルが増えたのか、市場に行き渡ったのか、他社の差別優位性に負けているのか。
この3つは打つ手がまったく違うので、先に見分けないと手を打てません。
仮説から始めると、直す場所が増えすぎます
最初にデータの話をします。
売上が下がった原因を考えるとき、データが重要です。理由は、仮説だけで進めると改善することがたくさんになってしまうからです。
考えてみてください。思いつく原因が8つあったとして、どれも可能性がある状態で動き出すと、8つ全部に手を打つことになります。
広告を戻し、ホームページを直し、接客を見直し、新商品を考える。小さい会社でこれを同時にやると、どれも浅くなります。そして結果が出ても、何が効いたのか分かりません。
データを見る目的は、候補を減らすことです。正解を出すためではなく、消すために使います。
見る数字は難しいものではありません。客数が落ちたのか、単価が落ちたのか、買う回数が落ちたのか。この3つを去年と並べるだけで、原因の方向が絞れます。
客数が落ちているなら外で何かが起きています。単価だけが落ちているなら値引きか商品構成の問題です。回数が落ちているなら既存のお客さんの側に変化があります。
商圏そのものを数字で見たい場合は、国が公開しているjSTAT MAPというツールが使えます。人口の構成や世帯数を地図の上で確認できるので、お客さんが減ったのが自社のせいなのか地域の変化なのかを切り分けられます。
使い方は大阪のjSTAT MAP商圏分析セミナー講座で扱っています。
データで方向が見えたら、次は原因の在りかを決めます。
先に、社内で落ちたものがあるかを確かめます
市場の話に入る前に、自社の中を見ます。内部要因で落ちることは普通にあります。
よくあるのは次の4つです。
組織力が落ちている。人が辞めた、引き継ぎができていない、現場が回っていない。
営業力が落ちている。訪問や連絡の数が減った、主力の営業担当が抜けた、新人に変わった。
広告が落ちている。出稿を減らした、媒体を変えた、クリエイティブが古くなった。
商品やサービスの力が落ちている。品質が下がった、納期が遅くなった、仕入れを変えた。
この4つは、市場の話と違って社内の記録で確認できます。人の増減、訪問件数や問い合わせ件数、広告費、クレームや再依頼の数。去年と並べれば動いたかどうかが分かります。
内部要因の確認を先にやる理由は、動かせる範囲が自社の中にあるからです。原因がここなら、戻せば戻ります。
そして内部要因は、放っておくと市場の原因と混ざります。競合が増えた時期に営業担当が辞めていた、という重なり方は珍しくありません。どちらも効いている場合は両方に手を打つ必要があるので、先に切り分けておきます。
社内の数字が去年とほとんど変わっていない。それなのに売上だけ落ちている。このときは外で何かが起きています。ここから先の3つを見てください。
原因1 ライバルが増えて、価格競争に入っている
最も大きな原因はこれです。経験上、売上が落ちた相談で一番多いのがこのパターンです。
同じ商圏に同じような店が増える。同じ市場に同じようなサービスが増える。すると何が起きるか。差別化ができない市場では、どうしても価格競争になります。
お客さんから見て中身の違いが分からなければ、判断材料は値段しか残りません。だから安いほうが選ばれる。そして自社も値段を下げる。これが始まると、売上も利益も削られていきます。
ここで多くの人が打つ手を間違えます。
ベネフィットを強くしても、必要とされないものなら効きません
価格競争に入ったとき、よく言われるのが「価格ではなく価値で勝負しろ」です。ベネフィットを打ち出せ、お客さんが得られる結果を伝えろ、と。
これは半分しか正しくありません。
ベネフィットをどれだけ改善して強力にしても、そのベネフィットがユーザーに必要なければ、値段の安い商品を買われます。ここが抜けている助言が多い。
例で考えてみます。ある商品に「10年もつ」という強いベネフィットを付けたとします。耐久性を倍にして、説明も丁寧に作った。けれどお客さんが3年で買い替える前提で選んでいるなら、10年もつことに価値を感じません。結果、安いほうを買います。
ベネフィットの強さではなく、必要とされているかどうかが先です。強化する前に、それが求められているかを確認してください。
ここを飛ばすと、労力をかけたのに価格競争から抜けられない、という状態になります。
必要とされるニーズは、買った人の言葉から拾います
では、何が必要とされているかはどこで分かるのか。市場調査をしましょう、という話になりがちですが、小さい会社にその予算はありません。
一番早いのは、すでに買ってくれた人に聞くことです。それも「満足しましたか」ではなく「他にも候補があったと思いますが、何が決め手でしたか」と聞く。選ぶ瞬間に何を見ていたかが出てきます。
このとき多いのが、自分が強みだと思っていた部分と、お客さんが挙げる理由がずれているケースです。技術の精度を磨いてきたのに、決め手は「連絡が早い」だった。そういうことが起こります。
ずれていたら、お客さんが言ったことを前に出してください。新しく何かを作らなくても、打ち出す場所を変えるだけで価格競争から半歩抜けられることがあります。
ただし、必ず安いほうに行くわけではありません
価格が全部を決めるわけでもありません。人の判断にはヒューリスティックが働きます。細かく比較せず、近いから、前に使ったことがあるから、知っている名前だから、という理由で決めることが多い。
だから値段だけで全部が動くとは限りません。ただ、一番左右するのが値段であることは変わりません。他の条件が近ければ、安いほうに流れます。
ここを正確に押さえておくことが大事です。価格は絶対ではないが、最も強い。だから価格以外で勝ちたいなら、お客さんが本当に必要としている違いを作る必要があります。
原因2 ライバルは増えていないのに下がる。市場に行き渡った
競合を調べてみたけれど、増えていない。それでも売上が落ちている。このときに考えるのが2つ目の原因です。
すでに行き渡っている可能性があります。
商品の性質で分かります。一回買えば済む商品。それほど毎日必要ではない商品。こういう商品は、使えば要らなくなります。
住宅設備、リフォーム、楽器、特定の資格講座、業務用の機械。この種類の商品は、買った人が次に買うまでの間隔が長いか、二度と買いません。だから同じ商圏で売り続けると、いつか買う人がいなくなります。
これは誰のミスでもありません。市場の性質です。それなのに「売り方が悪い」「接客が落ちた」と自社の中を探し始めると、答えが出ないまま時間が過ぎます。
見分け方があります。新規のお客さんの数を、エリア別か年齢層別に分けて見てください。全体が均等に落ちているなら売り方の問題ですが、特定のエリアや層だけ枯れているなら行き渡った状態です。
打つ手は3つに分かれます。商圏を広げる。客層を変える。商品を変えて、同じお客さんがまた買う理由を作る。どれを選ぶかは、動かせるものがどれかで決まります。
原因3 一番安いのが自社なのに下がる。他社の差別優位性
これが一番見落とされます。
価格競争に巻き込まれて、値段を下げて、調べてみたら自社が一番安い。それでも売上が落ちている。この状態は、価格の話ではもう説明できません。
この場合、他社が強みのある差別優位性の高い商品を売っていることがあります。
重要なのは、その差別優位性がニーズにマッチしているという点です。他社が何か違うことをやっているだけでは、お客さんは動きません。お客さんが求めているものと、他社の強みが一致しているときに、価格が効かなくなります。
つまり、安いからといって売れる市場ではないということです。
ここに気づかずに値段を下げ続けると、利益だけが消えていきます。しかも一度下げた価格は上げにくいので、損が固定されます。
確認の方法は単純です。選ばれなかったお客さんに、どこを選んだかを聞くことです。失注の理由を聞くのではなく、どこに決めたかを聞いてください。理由は本人も言葉にできないことが多いですが、決めた先は答えてくれます。
そして競合先の何が選ばれたのかを見る。価格ではないなら、その会社がニーズに合う何かを持っているということです。
見分ける順番
切り分けの手順にします。上から順に確認してください。
1つ、客数・単価・回数のどれが落ちたかをデータで見る。ここで方向が絞れます。
2つ、社内の数字が去年から動いていないかを見る。人、営業の活動量、広告費、品質。動いているなら内部要因です。
3つ、同じ商圏や市場で競合が増えたかを確認する。増えているなら原因1です。
4つ、増えていないなら、商品が一回買えば済む種類かどうかを考える。該当するなら原因2です。
5つ、競合が増えておらず、商品も繰り返し買うものなのに落ちている場合。そして自社の価格が高いほうでない場合。これは原因3です。他社の差別優位性を見てください。
この順番で見ると、打つ手が1つか2つに絞れます。8つ全部やる状態から抜けられます。
原因別に、打つ手が変わります
| 原因 | 起きていること | 打つ手の方向 |
|---|---|---|
| 内部要因 | 組織・営業・広告・商品力のどれかが落ちた | 落ちた項目を元に戻す。社内の数字で追える |
| ライバルが増えた | 差別化できず価格競争 | お客さんが必要としている違いを作る。値下げで対抗しない |
| 市場に行き渡った | 買う人が枯れた | 商圏を広げる、客層を変える、繰り返し買う理由を作る |
| 他社の差別優位性 | 安さが効かない市場だった | 何が選ばれているかを調べる。値下げを止める |
市場の3つに共通して避けたいのは、原因が分からないまま値下げすることです。原因1でも対抗値下げは消耗戦になりますし、原因2では買う人がいないので安くしても売れません。原因3では安さがそもそも効いていません。大阪の中小企業さんはこちら。
どのケースでも、値下げは最後の手段です。
よくある質問
売上の相談でよく聞かれることをまとめました。
Q: データを見ろと言われても、客数や単価を記録していません。
A: 今日から取り始めてください。レジの記録でも、手書きのノートでも構いません。1か月分あれば来月と比べられます。過去の数字がない場合は、確定申告の売上と、覚えている範囲の客数で概算を出すところから始めてください。精度は低くても、方向を見るには足ります。
Q: 競合が増えたかどうか、どう調べればいいですか?
A: 店舗なら歩いて確認するのが一番正確です。Googleマップで業種と地域で検索して、件数を見る方法もあります。
サービス業なら、自社が狙っているキーワードで検索して、上位に出てくる会社の数と顔ぶれが去年と変わったかを見てください。半年前のことは思い出せないので、今の状態を記録しておくと次に使えます。
Q: 景気や外部要因が原因の場合もありますよね。
A: あります。ただ景気を原因にすると打つ手がなくなるので、判断を急がないでください。同じ商圏の同業が同じように落ちているなら外部要因です。自社だけ落ちているなら、理由は中か競合にあります。まずそこを見分けてください。
Q: 内部要因と市場の原因が両方ありそうです。どちらを先に直しますか?
A: 内部要因が先です。社内のことは自分で動かせるので、戻せば結果も戻ります。市場の原因は打ち手を考えるところから始まるので時間がかかります。
それと、内部が落ちたままで市場向けの手を打つと、効いたのかどうかの判断がつきません。土台を戻してから外に向かうほうが確実です。
Q: 営業力が落ちたかどうかは、どの数字で見ればいいですか?
A: 結果ではなく活動量で見てください。訪問件数、電話や連絡の回数、見積もりを出した件数。この3つが去年より減っていれば営業力ではなく活動量の問題です。
活動量が同じで成約だけ落ちているなら、商品か競合のほうを疑ってください。同じ「営業が弱い」でも、原因と打つ手がまったく別になります。
Q: ベネフィットが必要とされているか、どうやって確認しますか?
A: 買ってくれた人に、何が決め手だったかを聞くのが一番早いです。
自分が強みだと思っている部分と、お客さんが挙げる理由は、だいたいずれます。5人に聞けば傾向が出ます。ずれていた場合は、お客さんが言った部分を前に出してください。
Q: 原因2の「行き渡った」が自分に当てはまる気がします。何から手をつけますか?
A: 3つの選択肢のうち、一番コストが低いのは客層を変えることです。商圏を広げると移動と広告の費用が増え、商品を変えると開発の時間がかかります。
今の商品のまま、別の年齢層や別の用途に向けて売り方を変える。これが最初に試す手です。
Q: 失注したお客さんに、どこを選んだか聞きにくいです。
A: 断られた直後ではなく、少し時間を置いてから聞くと答えてもらいやすくなります。それと「なぜうちを選ばなかったか」と聞かないことです。相手が責められているように感じます。「今後の参考にしたいので、どちらに決められたか教えていただけますか」という形にしてください。
まとめ
売上が下がったとき、ほとんどの経営者が最初に手を伸ばすのが値下げです。何かしなければと焦ると、一番すぐにできるのがそれだからです。
そこで一度だけ、自分に質問してみてください。
「うちの売上が落ちたのは、ライバルが増えたからですか。買う人がいなくなったからですか。それとも、よそが選ばれる理由を持っているからですか」
この質問に答えられないなら、値下げをする段階にありません。
答えられない理由は、たぶん数字を見ていないからです。客数と単価と回数を去年と並べる。人と営業の活動量と広告費が去年から動いていないかを見る。商圏の競合が増えたかを歩いて確かめる。ここまでやれば、だいたい答えが出ます。
そして答えが出たあとに気づくことが多いのですが、3つのどれであっても値下げは正解になりません。ライバルが増えた市場では消耗戦になり、買う人が枯れた市場では安くしても買われず、よそが選ばれている市場では安さがそもそも効いていない。
値下げは、答えが出たあとで最後に選ぶ手です。順番を逆にすると、利益だけが減って原因はそのまま残ります。
